満開のコスモスに包まれるように、幼い彼女は泣いていた。
そんな彼女の前に、一人の男は手にしていた薙刀を地面に置き、膝をつく。
苦笑いを浮かべた男――二十代後半か三十前半くらいだろう――彼は少女の頭をそっと撫でる。
「確かにおかしな顔の犬だな」
幼い少女を追いかけ回していた、皺の寄った小型犬が鳴きながら二人から離れてゆく姿を見て少し悲しく笑った。
「もう、怖い犬はいないぞ、いつまで泣き続けるつもりだ?」
少女は鳴き声を上げて、そしてうずくまる。
膝は転んだときに擦り切れたようで赤い血がにじんでいた。
桃色のスカートは砂で汚れてしまい、茶色く変わっていた。そのことも少女が泣く一つの理由だ。
お気に入りの桃色のスカート。なのに汚してしまった。
そんな少女を見ながら男はくつくつと喉を鳴らしながら笑う。
「だから言ったんだ。変わらないな、お前は―――、そんな短いすかーとと言う着物を着ているからこんなに――」
そう言って、一枚の長細い紙を取り出した。
少女の膝小僧に当てると紙は赤紫の光を纏い、
「痛いの痛いの、飛んでいけ~」
男は、頬を染めて小さく悪態をつく。
どうやらこの台詞が恥ずかしいらしく、目を丸くした少女に見るな!と小さく怒る。
少女は、目の前にあふれた赤紫の光と共に痛みが消えた足をきょとんとして見つめた。
「いたくない…?」
痛かったはずの膝は、怪我などしてはいないと言うかのように―――傷が消えていた。
「ああ、痛くないだろう?」
「おじちゃん、魔法使い??」
目を大きく見開いて少女は驚きに声を上げた。
男は、少女の「おじちゃん」と言う言葉に地味に落ち込み、『魔法使い』と言う言葉に困惑の表情を浮かべた。
「あー…違うぞ。おじちゃんじゃない…お兄ちゃんだ。それで、まほうつかい?じゃないぞ」
「? おじちゃんでしょ?着物を着た、魔法使いのおじちゃん」
少女はにぱにぱと笑顔を男に向け、男は口元を引くつかせた。
おじちゃんと呼ぶな、まだ若い。と、少女に告げることはできなかった。
少女の笑みが、忘れていた感情を―――否、忘れることなどできはしなかった。
今の今まで、忘れていた気になっていた―――。いつも、いつも、いつも、探していた。
彼女を―――。
「あのね、おじちゃん。おかーさんがこういうときは『ありがとうございます』っていってねっていうの。だから、――――ありがとうございます」
座り込んだ身体を立ち上がらせ、少女は男に深々とお辞儀とお礼を告げる。
男はそんな少女を微笑ましく思い、
「また、出会えて―――嬉しかった――――」
そう、少女の肩に手を当てて、うつむいた男の頬に流れる涙が地に落ちる。
「ありがとう、天音」
そう、少女――天音に、男は告げた。
満開の、コスモス畑。
もう二度と、逢う事はないだろう―――。
けれど、待っている、ずっと―――。
幼い天音は首をかしげ、男は苦笑いを浮かべ、
「いつか、また」
そう少女に告げ、彼女を両親のもとへと連れて行った。
お辞儀をし、何度も礼を告げる両親に天音に向けた苦笑いを浮かべ踵を返す。
幼い天音は苦笑いを言う、寂しさと悲しさをこらえた男の去る背をずっと見つめていた。
そんな彼女の前に、一人の男は手にしていた薙刀を地面に置き、膝をつく。
苦笑いを浮かべた男――二十代後半か三十前半くらいだろう――彼は少女の頭をそっと撫でる。
「確かにおかしな顔の犬だな」
幼い少女を追いかけ回していた、皺の寄った小型犬が鳴きながら二人から離れてゆく姿を見て少し悲しく笑った。
「もう、怖い犬はいないぞ、いつまで泣き続けるつもりだ?」
少女は鳴き声を上げて、そしてうずくまる。
膝は転んだときに擦り切れたようで赤い血がにじんでいた。
桃色のスカートは砂で汚れてしまい、茶色く変わっていた。そのことも少女が泣く一つの理由だ。
お気に入りの桃色のスカート。なのに汚してしまった。
そんな少女を見ながら男はくつくつと喉を鳴らしながら笑う。
「だから言ったんだ。変わらないな、お前は―――、そんな短いすかーとと言う着物を着ているからこんなに――」
そう言って、一枚の長細い紙を取り出した。
少女の膝小僧に当てると紙は赤紫の光を纏い、
「痛いの痛いの、飛んでいけ~」
男は、頬を染めて小さく悪態をつく。
どうやらこの台詞が恥ずかしいらしく、目を丸くした少女に見るな!と小さく怒る。
少女は、目の前にあふれた赤紫の光と共に痛みが消えた足をきょとんとして見つめた。
「いたくない…?」
痛かったはずの膝は、怪我などしてはいないと言うかのように―――傷が消えていた。
「ああ、痛くないだろう?」
「おじちゃん、魔法使い??」
目を大きく見開いて少女は驚きに声を上げた。
男は、少女の「おじちゃん」と言う言葉に地味に落ち込み、『魔法使い』と言う言葉に困惑の表情を浮かべた。
「あー…違うぞ。おじちゃんじゃない…お兄ちゃんだ。それで、まほうつかい?じゃないぞ」
「? おじちゃんでしょ?着物を着た、魔法使いのおじちゃん」
少女はにぱにぱと笑顔を男に向け、男は口元を引くつかせた。
おじちゃんと呼ぶな、まだ若い。と、少女に告げることはできなかった。
少女の笑みが、忘れていた感情を―――否、忘れることなどできはしなかった。
今の今まで、忘れていた気になっていた―――。いつも、いつも、いつも、探していた。
彼女を―――。
「あのね、おじちゃん。おかーさんがこういうときは『ありがとうございます』っていってねっていうの。だから、――――ありがとうございます」
座り込んだ身体を立ち上がらせ、少女は男に深々とお辞儀とお礼を告げる。
男はそんな少女を微笑ましく思い、
「また、出会えて―――嬉しかった――――」
そう、少女の肩に手を当てて、うつむいた男の頬に流れる涙が地に落ちる。
「ありがとう、天音」
そう、少女――天音に、男は告げた。
満開の、コスモス畑。
もう二度と、逢う事はないだろう―――。
けれど、待っている、ずっと―――。
幼い天音は首をかしげ、男は苦笑いを浮かべ、
「いつか、また」
そう少女に告げ、彼女を両親のもとへと連れて行った。
お辞儀をし、何度も礼を告げる両親に天音に向けた苦笑いを浮かべ踵を返す。
幼い天音は苦笑いを言う、寂しさと悲しさをこらえた男の去る背をずっと見つめていた。
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